風のなかに残る恋の伝説
唐津の町を抜けて少し走ると、田んぼの向こうに大きな岩山のようなものが見えてきます。ここが「佐用姫岩(さよひめいわ)」。

まわりは湿地を生かした公園のようになっていて、木の桟橋がぐるりと囲んでいました。

案内板を読むと、この岩には古い恋の伝説がありました。都から兵を率いて松浦の地にやってきた大伴狭手彦(おおとものさでひこ)に恋をした、地元の娘・佐用姫。やがて彼が新羅へと旅立つ日、姫は鏡山の上から船を見送り、悲しみのあまり身を投げたといいます。『万葉集』にも、姫を詠んだ歌が残っています。
行く船を 振り留みかね 何すとか 恋しくありけむ 松浦佐用姫
今もこの地の風が、その想いを伝えているようでした。

岩のふもとには、小さな祠(ほこら)がありました。白い社の中には、姫をかたどった像が静かに祀られています。

周りには、いくつもの岩が散らばっています。まるくてかわいらしい形のものや、どこか亀のような石もあって、思わずひとつひとつ見て回りたくなります。岩たちは姫を囲むように並んでいて、まるで静かに見守っているようでした。