夫の裏切りと新たな出会い
(前回の続き)編集長に就任して仕事は充実していた野枝ですが、私生活では夫が野枝の従妹と不倫した事が発覚します。ちなみにこの時、野枝は二人目の子供を妊娠していました。
身重の妻に働かせて、働かずに妻の親族と不倫をする。ここまでまっすぐだと清々しいですね。
伊藤野枝と大杉栄
全く働かない上にとうとう不倫までした夫に、愛想が尽きてしまいました。野枝は出産後すぐに、口説いてきた有名な社会主義者でアナーキストの大杉栄(おおすぎさかえ)と恋愛関係になります。
大杉も結婚していましたが、自由恋愛論を掲げ、手あたり次第に女性を口説きまくる男でした。新聞記者の神近市子という愛人もいて、野枝を含めた四角関係になります。
普通の感覚なら身を引きますが、野枝は逆にこのような状態だと闘志が湧いてくる性分のようです。大杉を絶対に自分の物にしようと、全てを捨てて大杉の元に走りました。
伊藤野枝 家族のその後
野枝に逃げられた夫の辻は、その後は一人で放浪生活を続け、次第に精神異常の兆候が現れ精神病院へ入院。放浪と警察による保護を繰り返し、最後はシラミまみれで死んでいるのを発見されています。
長男の辻まことは、父の友人の家に厄介になり、その後は画家・詩人に。また、0歳で捨てられた次男の流二は里子に出され船乗りになったり農家になったりしましたが、生涯母親を恨んでいたようです。
雑誌『青鞜』の編集は大杉と行動を共にするようになって放棄、そのまま廃刊になりました。らいてうを批判していましたが、自分も同じく男が原因で放り出してしまいました。
日陰茶屋事件
大杉栄は社会運動家としては有名でしたが定職はなく、愛人の神近市子からの金銭的援助を受けていました。しかし二人の間に若い野枝が割り込んできてからはギクシャクし始めます。
ある日、葉山の茶屋で仕事をするといって出掛けた大杉を追っていくと、そこには伊藤野枝の姿が。気まずさから野枝は退散しますが、嫉妬に狂った神近は大杉に詰めよると、逆に別れ話を切り出されました。
逆上した神近は、咄嗟に持っていた短刀で大杉の首を斬りつけてしまいます。幸い致命傷にはならず一命は取りとめました。
日陰茶屋事件のその後
その後、神近は逃走して近所の海で自殺を図りますが死にきれずに自首します。裁判の末、殺人未遂で2年服役しました。この事件がきっかけで大杉は正妻とも離婚、結局野枝の一人勝ちになりました。
この事件は日陰茶屋事件として世間を賑わせ、大杉は被害者でしたが、世間は神近に同情的でした。大杉栄と伊藤野枝の恋愛は「悪魔の恋」と報道され、世間から壮絶なバッシングを受けます。二人の周囲にいた仲間たちも、次第に離れて行きました。
しかし、そんな批判にめげる野枝ではありません。周囲からの「悪魔」呼ばわりを逆手に取り、世間を挑発するかのように、我が子に悪魔の子という意味で魔子と命名しました。(続く)